アーリーミュージックカンパニー
チャペルコンサート
シリーズ2014年
平井満美子&佐野健二
演奏風景、プログラム


第137回
イングリッシュバラード
平井満美子&佐野健二

EMC Chapel Concert
Since 1995
No. 137
English BalladsBR>
2014.5.29 19:30pm
Senri Hankyu Hotel Ivy Chapel
The Early Music Company





イギリスのはやり歌の魅力

 グリーンスリーブスに代表されるイギリスのバラードは、その旋律の普遍的美しさ故、時代や国境を越え今なお世界中で愛されています。それらのルーツの多くはリュートが最も繁栄した時代であるエリザベス朝にまでさかのぼります。
 16世紀のイギリスにはブロードサイド・バラードという民衆の歌がありました。新聞の先祖とされるブロードサイドと呼ばれた1枚刷りの質素な紙に書かれた内容を、皆の知る旋律にのせ街かどで歌われたのです。ブロードサイド・バラードは庶民の情報源としても人気がありました。
 現代のフォークソングの伴奏楽器としてはギターが筆頭にあげられますが、、ルネサンスの時代でも伴奏には撥弦楽器が好まれました。安価なルネサンスギターやシターンなどはバラードと共に即興的にかき鳴らされ、庶民の楽しみの一つでもありました。王侯貴族が好んだリュートやオルファリオンの伴奏譜には芸術性の高い物も多く残されており、歌詞には優れた詩が用いられたはやり歌が歌われていました。16世紀のイギリスでは、宮廷人から庶民まで、うれしいにつけ、悲しいにつけ、自らの気持ちを楽の音に託したのでした。
 17世紀にはレイヴンスクロフトやプレイフォード等が「はやり歌の曲集」を出版し人気を集め、18世紀では主教パーシーが古い写本から編纂した「民謡詩集」がイギリスのみならず、後のドイツロマン主義文学にまで影響を与えたといわれています。19世紀にはチャッペルの「古い時代の旋律」や、本プログラムの表紙であるマルツィアスの「古い歌の本」、そして20世紀にはセシル・シャープが「英国民謡集」等で数多くのエリザベス朝のはやり歌を紹介しています。イギリスの人たちは自国の伝承歌をかけがえのない財産として継承もしてきたのです。
 本日演奏に使用する楽器は7コースリュートと9コースオルファリオン。7コースのリュートは典型的なルネサンスリュート。アラブを発祥とするこの楽器は十字軍の遠征により西洋に持ち込まれ、その姿と響きは人々の心をとらえ、ヨーロッパ全土に広まりました。そしてオルファリオンは16世紀にヨーロッパでリュートの代替楽器として作り出されました。その名もギリシャ神話の神であるオルフェウスとオリオンを組み合わした当時の理想楽器です。リュートと同じ調弦ながら、金属弦が用いられ、リュートとは、響きの違いも楽しむ事が出来たのです。どちらもエリザベス朝のイギリス音楽にはかかせない楽器です。
 今宵のプログラムは前述のウィリアムス・チャッペルの「古い時代の旋律」より選曲しましたが、ほとんどの曲はルネサンスにルーツを持つ曲ばかりです。リュートとオルファリオン伴奏による古き良きイングリッシュ・バラードの数々をお楽しみ下さい。



● Greensleeves* グリーンスリーブス●
あゝ 恋人よ 酷いことをするね 私を見捨てるなんて
こんなにも愛していたのに 緑の袖は私の喜び 私の心の宝だったのに

●Golden slumbers ゴールデンスランバー●
極上のまどろみがおとずれる さあ おやすみなさい
子守唄を歌ってあげるから

● Robin Hood ロビンフッド ●
ノッティンガムの革屋 アーサーブランド、 リトルジョンと一緒に踊り
"僕らは愉快な仲間だ 生きている限り僕らはひとつだ"

●Heart's-ease 心の慰め●
気晴らしは私達の喜び 上手くすれば何も心配することはない
この骨折りの人生もうんざりする日々も きっと神様は良くしてくださる

●Go from my window 行け我が窓辺より / John Dowland (1563-1626) ●

●My Lord Willoughby's Wellcome Home ウィロビー卿の御帰還 ●
フランダースで有名な戦いがあった 7月15日 イングランドの勇敢な士官
ウィロビー卿の矢は荒々しく飛び敵も震えあがった 勝利の声は空に響く

●Fairest Nymph 美しいニンフ ●
はにかみ屋の美しいフィリダが死んだ ダイアナは葬儀を取りまとめ
哀しいエレジーを歌う フローラは花をたむけ 涙する

●The Three Ravens* 三羽のからす●
カラスが木の上から狙ってる 犬や鷹 雌鹿が殺された騎士を見守る
皆は 夜明け前に兵士を葬り 夕暮れには死んでしまった

●Barbara Allen バーバラ・アレン●
美しいバーバラは重い病いのジェミーに言う あなたは死んでしまいそう
彼は逝き 彼女の心は罪に張り裂ける

●Watkins Ale ワトキンス・エール●
かわいい子がいた 良からぬ事を考えた彼
ワトキンスエールをあげよう 彼女はよろこんだ

使用楽器/ 7-course Lute in G = Martin Haycock 1990
     *9-course Orpharion = Stephen Barber 1990



●平井 満美子 Mamiko Hirai/ソプラノ
 幼少より母にピアノを学び、キリスト教会にて讃美歌に親しむ。声楽を畑きみ子、斉木幸子の両氏に師事し、神戸女学院大学音楽学部声楽科を卒業する。卒業後、二期会に於いてはオペラ、テレマン協会では教会バロック音楽、ダンスリールネサンス合奏団ではルネサンス時代の音楽、と様々なジャンルを平行しての音楽活動を始める。その後、音楽的興味は徐々にルネサンス後期から初期バロックに絞られてゆき、1990年より佐野健二とのデュオ活動に演奏活動の中心を置く。数少ない古楽の歌い手としてのその活動は新聞、音楽誌等にて高く評価されており、特にイギリス音楽における理解度の深さは常に注目されている。現在までに発売された佐野健二とのデュオCD全ては「レコード芸術」「音楽現代」等の推薦盤に選ばれ、デュオリサイタルに対しては「大阪文化祭本賞」を受賞している。EMC主宰、NHK文化センター大阪「リュートで歌うはやり歌講座」講師。

  ●佐野 健二 Kenji Sano/ルネサンスリュート、オルファリオン
 両祖父は西洋音楽学者と箏大検校、母はピアニスト、叔母はオペラ歌手、父はアマチュアながら清元の優れた演者、幼少時はピアノを学び、ギターは10歳より独学で始める。高校卒業後、岡本一郎氏に師事し同年九州ギターコンクール2位、翌年なにわ芸術祭新人賞を受賞する。師の勧めで英国・ギルドホール演劇音楽院に留学、ギターと古楽全般を学び、学内で「ジョン・ペティカン・クリフォード音楽賞」を受賞、首席にて卒業する。演奏活動に対し、「ロンドン芸術協会選出新人音楽家」「大阪文化祭賞奨励賞」「クリティッククラブ新人賞」「神戸灘ライオンズクラブ音楽賞」「大阪文化祭本賞(2回)」等の賞を受ける。2007年、リュート音楽に特化したEMCluteRecordsレーベルを設立、自ら演奏、録音、編集、ジャケットデザインを総合的に行い、発売されたCDは専門音楽誌において優秀録音盤、推薦盤等として評価されている。EMC主宰、相愛大学非常勤講師。

       



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