アーリーミュージックカンパニー
チャペルコンサート
シリーズ2012年
平井満美子&佐野健二
演奏風景、プログラム


第129回
フランスバロックの楽しみ

EMC Chapel Concert
Since 1995
No. 129
The Pleasure of the French Baroque

2012.10.18 19:30pm
Senri Hankyu Hotel Ivy Chapel
The Early Music Company





フランスのバロックダンスと作曲家/湯浅 宣子
宮廷の起源は1100年頃のフランスとされる。騎士が集まり交流する際重んじられた礼節(クールトワジー)が宮廷(クール)という言葉の起こりと考えられる。宮廷では礼節を表す為のマナーが発達し、ダンスもその一環として学ばれた。同時にダンスは特別な機会に重要な客をもてなす催しとして上演され、その規模により主催者の財力、権力を内外に示した。
17世紀のフランス宮廷では、太陽王と呼ばれ、絶対王権を手にしたルイ14世が王立舞踏アカデミーを設立して、ダンスの発展を促した。舞踏記譜法を舞踏教師に命じて完成させ、これによりダンスが1700年から記録され、約350現存している。そこには200曲を超えるデュエットと女性ソロ24曲、男性ソロ50曲が含まれる。その作曲者としては、ジャン=バティスト・リュリ(1632-1687)の67曲とアンドレ・カンプラ(1660-1744)の44曲が傑出して多い。
リュリはイタリア語の家庭教師としてフランスに赴き、10代で音楽や舞踏の素養を身に付けた。舞踏家、喜劇役者としての才能が認められ、1653年ルイ14世や貴族、舞踏家と共に宮廷バレエの舞台に立ち、その後宮廷の作曲家となる。リュリはコメディ・バレ(ダンス付きコメディ劇)や、のちにトラジェディ・リリック(神話や伝説を題材とするダンス付きオペラ)を生み出した。その人気は死後も衰えることなく、作品は18世紀を通じて再演された。現存する女性ソロの中にもリュリによるオペラから8曲が含まれ、「アルミード」や「アティス」は長く人気の作品だった事がわかる。
カンプラは聖職者として教会の楽長を勤め教会音楽の指導や作曲をしていたが、舞台作品への意欲を抑えがたく、パリのノートルダム寺院を去ってオペラ座の指揮者となった。オペラ・バレ(ストーリーよりもバレエや派手な装置を楽しむオペラ)を作り出し、「最も魅惑的な舞曲の作曲家」と言われた。現存する女性ソロの「優雅なヨーロッパ」と「ヴェニスの謝肉祭」は、カンプラの代表的なオペラ・バレ作品である。
リュリの様式、カンプラの叙情性を兼ね備え、二人をつなぐ作曲家と言われるのがテオバルド・ガッティ(1660-1727)だ。ガッティはフィレンツェでリュリの音楽を聴いて触発され、パリに赴きヴィオル(ヴィオラ・ダ・ガンバ)奏者として活躍した。トラジェディ・リリック「シラ」は残された2舞台作品の一つ。この作品中、4曲のダンスが記録されていて、そのうち3曲が女性ソロである。2曲はマリ・スブリニによって踊られたソロだが、彼女はリュリが開設したパリ・オペラ座アカデミーでリュリに教えを受けた。デビュー後まもなく英国に招かれ「恐るべき怪物」と評されるほど、卓抜したテクニックの個性的なダンサーだった。フランスとヨーロッパの宮廷や上流の社交や舞台に欠かせなかったこのダンスも18世紀半ばから急速に人気を失う。新しい振り付けによる舞踏譜は1740年代からは殆ど出版がなくなり、気楽さを求める社交舞踏と新しい表現を求める舞台芸術に、17世紀の美意識は道を譲る事となる。




Classical Songs with Guitar

【リュリ Jean-Baptiste Lully 1632-1687 】
●女性ソロのアントレ(ガヴォット)「アティス(1676)」より 振付:L.-G.ペクール●
Entree pour une femme “Atys”
●女性ソロのアントレ(サラバンド)「アティス(1676)」より 振付:L.-G.ペクール●
Entree Seul pour une femme “Atys”
●ファエトン Phaeton, Tragedie / Chaconne
●パッサカイユ「アルミード(1686)」より 振付:A.ラベ●
A Passacaille “Armide”
【カンプラ Andre Campra 1660-1744 】
●女性ソロのスペインのアントレ(ルール)「優雅なヨーロッパ(1697)」より●
振付:L.-G.ペクール
●女性ソロのアントレ(フォラーナ)「ヴェニスの謝肉祭(1699)」より●
振付:L.-G.ペクール
Entree pour une femme “Le Carnival de Venise”
【ガッティ Theobaldo Gatti 1650-1727 】
●サラバンド「シラ(1701)」より 振付:R.-A.フイエ●
Sarabande “Scylla” 【ドヴィゼ Robert de Visee 1655-1732/33】
●プレリュード Prelude Re miniur●
【シャルパンティエ Marc Antoine Charpentier 1643-1704 】
●小川よ、おまえはこの森で Ruisseau, qui nourris dans ce bois●
嫉妬にかられ絶望する 小川を涙でみたすことはしない 私は死ぬのだから
ガッティ Theobaldo Gatti 1650-1727 】
●女性ソロのアントレ(ルール)「シラ(1701)」より 振付:L.-G.ペクール●
Entree pour une femme “Scylla”
●女性ソロのジグ「シラ(1701)」より 振付:L.-G.ペクール●
Gigue pour une femme “Scylla”
【ボワモルティエ Joseph Bodin de Boismortier 1689-1755 】
●ダイアナとアクテオン Daine et Acteon● アクテオンは泉で水浴びする美しいダイアナにみとれてしまう
  ダイアナは怒り アクテオンは鹿に姿を変えられ 犬に追われる
Recitatif - Air Gai - Recitatif - Air Vif - Recitatif - Air Tendre (ルール) 振付:N.ユアサ



●湯浅宣子/バロックダンス
 立教大学卒業。教会音楽学校他で古楽演奏を学ぶ。バロックダンスをP.ウェイト、ルネサンス、カントリーダンスをP.ディクソン、D.クリックシャンク各氏に師事、バロックダンスをP.-W.ボーゲス、T.ベアード、K.ピアース各氏に学び、古典マイムをS.ボーデン氏に学ぶ。2004、06年英国コンソート・デ・ダンスバロック日本公演ツアーを企画・出演。毎年英国で古楽祭、ダンス公演に出演、国内各地で講習、公演を行っている。舞台衣装をすべて考証し自作。英国コンソート・デ・ダンス・バロック所属、英国ロスティボリ・ルネサンスダンス・ゲストダンサー、英国アーリーダンスサークル、及び欧州舞踏史学教会会員。岡山アーリーダンスクラブ代表。http://emclute.com/yuasa
●平井満美子/ソプラノ
 神戸女学院大学音楽学部声楽科卒業。卒業後、古楽の演奏に興味を移し研究を始め、E.カークビー、J.キャッシュ、C.ボットらに学ぶ。現在、ルネサンスよりバロックを中心に、イギリス、フランス、イタリア、スペイン、ドイツの幅広いレパートリーを持つ、数少ない古楽の歌い手として活動している。多くのコンサートと録音を行い、その演奏は新聞、音楽誌等にて常に高く評価されている。現在までに発売された佐野健二とのデュオCD全ては雑誌「レコード芸術」の推薦盤に選ばれ、デュオリサイタルに対しては「大阪文化祭本賞」を受賞している。EMC主宰、NHK文化センター講師。
●小出 智子/アーチリュート
 同志社大学文学部英文学科卒。14歳でクラシックギターを始め、渡邊 滋生氏、増井一友氏、稲垣稔氏らにクラシックギターを師事。高校在学中、GLC学生ギターコンクール高校生の部第2位入賞、山陰ギターコンクール入選。大学卒業後、古楽に興味を移し、2003年よりアーリーミュージックカンパニーに参加。以来、佐野・平井両氏の下で研鑽を積む。リュート、19世紀ギター、通奏低音を佐野健二氏に、リュートソングを佐野健二・平井満美子両氏に師事。2004年ポール・オデット氏のマスタークラス受講。現在、EMC演奏助手、ソリスト、通奏低音奏者として関西を中心に活動している。
●佐野 健二/ バロックギター、テオルボ
英国・ギルドホール演劇音楽院首席卒業。ギターを岡本一郎、H.クワイン、B.オー、J.ブリームの各氏、リュートをA.ルーリー、N.ノース、J.リンドベルイの各氏に師事。演奏活動に対し、「ロンドン芸術協会選出1978年度新人音楽家」「大阪文化祭賞」等、多数の賞を受ける。現在、ルネサンス、バロック期の撥弦楽器を中心に、独奏・伴奏・通奏低音奏者として演奏、録音活動を行っているが、そのレパートリーは民族音楽より現代音楽にまで及んでいる。2007年、リュート音楽に特化したEMCluteRecordsレーベルを設立、自ら演奏、録音編集、ジャケットデザインを総合的に行い、発売されたCDは専門音楽誌において優秀録音盤、推薦盤等として評価されている。 EMC主宰、 相愛大学非常勤講師。




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