アーリーミュージックカンパニー
チャペルコンサート
シリーズ2011年
平井満美子&佐野健二
演奏風景、プログラム


第122回
英国ルネサンス舞踏集

EMC Chapel Concert
Since 1995
No. 122
English Dances
2011.8.25 19:30pm
Senri Hankyu Hotel Ivy Chapel






英国ルネサンスのダンス
湯浅宣子

ルネサンス時代の英国で、音楽とダンスの隆盛に忘れてならないのはエリザベス1世 (在位1558-1603) である。
宗教紛争や破綻寸前の国庫を抱え、対外勢力にも脅かされていた英国を、その国力を高め、海洋帝国としての礎を築き、歴史上最も華やかな時代へと導いた名君である。
女王は一方、音楽、ダンス、芸術を愛し、ヴァージナルを奏し、歌い、ダンスを踊った。好んだ踊りのひとつがガリアードで、毎朝数曲を踊ったと言われる。 ガリアードは後期ルネサンスを代表する快活な跳躍と足さばきのダンスである。男性の踊り手はソロの部分でステップを創意工夫して、技量の見せ所とした。 パヴァーヌは舞踏会の開幕に踊られたダンスで、貴族らしい立派な衣装や立ち居振る舞いを見せながらゆっくりと会場を巡った。 パヴァーヌとガリアードは共にイタリア起源と言われる。「スパニョレッタ」はスペインをイメージした曲で当時ヨーロッパで広く流行した。振り付けは4曲残るが、 イタリアの舞踏家ファブリツィオ・カローゾによる「マドリッド風の新しいスパニョレッタ」は一組の男女の為のもっとも技巧的な振り付けである。 ここでは二人が全く同じステップを使って踊る。「スパニョレッタ」や「カナリー」にはスペイン領カナリー島起源と言われる、床を踏み鳴らすステップが使われる。 「カナリー」では男性と女性それぞれによるソロのバリエーションと、定型の振り付け部分とが交互に繰り返される。 この時代英国の民衆のダンスを取り入れて「カントリーダンス」が宮廷で踊り始められた。17世紀の終わりにはフランスに渡り、ヨーロッパに広がっていくのだが、 その他の多くのダンスは大陸から英国へ伝えられたものだった。イタリアの舞踏教師は英国の宮廷にも渡り、そこではイタリアの振付家によるダンスが踊られたのだ。 フォリアはポルトガル起源と言われるが16世紀にはスペインに渡り、17世紀にイタリアへと伝えられた。 カナリーと同じく音楽は定型の和声進行を繰り返し、ダンスはステップのバリエーションを展開する。 定型の振り付け部分が途中に挿入される点でもカナリーと類似の型をしている。 フアン・アントニオ・ハケによる17世紀スペインの舞踏書に記された「フォリア」の振り付けにはルネサンスダンスに共通のステップ、 スペイン独自のステップに加えて、その後のバロックダンスへ影響を与えたステップもうかがえる。 フォリアは17世紀後半にはフランスに渡りヨーロッパ全土に広がっていく。
ルネサンス最盛期の英国では、「Dancing England(踊るイングランド」」 と呼ばれるほど、跳躍を含む快活なダンスが好まれ、 男性は舞踏会の花形として技巧的なステップを披露した。そこには大航海時代の冒険心、 新奇な情報や物が往来し経済や文化が高まる時代の活気、人生や楽しみを謳歌した人々の躍動的な心がダンスの好みにもみてとれる。



《dance & lutes》
● Pavane & Galliard / Anthony Holborne (c.1545-1602) ●
パヴァーヌとガリアルド
振付: Diana Cruickshank& Nobuko Yuasa

《lute & lute》
● Loraine Almain, Short Almain / Anon. ●
アルメイン

● Spagnoletta / Fabritio Caroso ●
マドリッド風の新しいスパニョレッタ
振付: Fabritio Caroso (1526/1535 ? 1605/1620)

《voice & lute》
●Woods,Rocks, and Mountains / Robert Johnson●
森よ 岩よ 山よ
●What if I seek for love or thee? / Robert Jones●
貴方の愛を求めたら
●O Death, rock me a sleep / Anon.●
ああ死よ 優しく私を眠らせてくれ

《dance & lutes》
●Il Canario / Cesare Negri (c.1535-c.1605) ●
カナリー
振付: Nobuko Yuasa

《lute & lute》
● Quadro Pavan&Galliard / Anon.●
パヴァーヌとガリアルド

《dance & lutes》
● La Folia / Rodrigo Martinez ●
フォリア
振付: Juan Antonio Jaque
 
《voice & lutes》
● Miserere My Maker / Anon. ●
哀れみたまえ創造主よ

《dance, voice & lutes》
● If My Complaints / Captain Piper’s Galliard ●
John Dowland (1563-1626)
私の嘆きを / パイパーのガリアルド
振付: Nobuko Yuasa


●湯浅 宣子/ダンス
 立教大学卒業。日本聖公会教会音楽学校他で古楽演奏を学ぶ。バロックダンスをP.ウェイト、A.イエペス、K.ピアース、T.ベアード、P.-W.ボーゲスに学ぶ。ルネサンスダンスをP.ディクソン、D.クリックシャンクに学ぶ。古典マイムをS.ボーデンに学ぶ。英国、フランス等でのダンス公演に招聘され毎年出演している。1997年より国内で毎年自主企画公演を行う。2004、06年、英国よりコンソート・デ・ダンス・バロックを招き、国内数都市で公演ツアーを企画・出演。?岡山県立城東高校音楽科、姫路市立パルナソスホールチェンバロ講習会他でダンス講習を担当。国内各地でダンス講習を行うほか、ダンス公演やミュージカルの振り付け、及び舞台衣装を考証、製作。CD「ムルシア:スペイン宮廷の為のフランス舞踏曲集」監修・解説。平成20年度「岡山県芸術文化賞功労賞」受賞。英国コンソート・デ・ダンス・バロック・ダンサー。英国ロスティボリ・ルネサンスダンス・ダンサー。英国アーリーダンス協会会員。欧州舞踏史学協会会員。岡山アーリーダンスクラブ代表。http://emclute.com/yuasa
●平井 満美子/ソプラノ
 神戸女学院大学音楽学部声楽科卒業。卒業後、古楽の演奏に興味を移し研究を始め、E.カークビー、J.キャッシュ、C.ボットらに学ぶ。現在、ルネサンスよりバロックを中心に、イギリス、フランス、イタリア、スペイン、ドイツの幅広いレパートリーを持つ、数少ない古楽の歌い手として活動している。多くのコンサートと録音を行い、その演奏は新聞、音楽誌等にて常に高く評価されている。現在までに発売された佐野健二とのデュオCD13点全ては雑誌「レコード芸術」「音楽現代」等の推薦盤に選ばれ、デュオリサイタルに対しては「大阪文化祭本賞」を受賞している。EMC主宰、NHK文化センター講師。
●小出 智子/リュート
 同志社大学文学部英文学科卒。14歳でクラシックギターを始め、渡邊 滋生氏、増井一友氏、稲垣稔氏らにクラシックギターを師事。高校在学中、GLC学生ギターコンクール高校生の部第2位入賞、山陰ギターコンクール入選。大学卒業後、古楽に興味を移し、2003年よりアーリーミュージックカンパニーに参加。以来、佐野・平井両氏の下で研鑽を積む。リュート、19世紀ギター、通奏低音を佐野健二氏に、リュートソングを佐野健二・平井満美子両氏に師事。2004年ポール・オデット氏のマスタークラス受講。現在、EMC演奏助手、ソリスト、通奏低音奏者として関西を中心に活動している。
●佐野 健二/ リュート
 英国・ギルドホール演劇音楽院首席卒業。ギターを岡本一郎、H.クワイン、B.オー、J.ブリームの各氏、リュートをA.ルーリー、N.ノース、J.リンドベルイの各氏に師事。演奏活動に対し、「ロンドン芸術協会選出1978年度新人音楽家」「大阪文化祭賞」等、多数の賞を受ける。現在、ルネサンス、バロック期の撥弦楽器を中心に、独奏・伴奏・通奏低音奏者として演奏、録音活動を行っているが、そのレパートリーは民族音楽より現代音楽にまで及んでいる。2007年、リュート音楽に特化したEMCluteRecordsレーベルを設立、自ら演奏、録音編集、ジャケットデザインを総合的に行い、発売されたCDは専門音楽誌において優秀録音盤、推薦盤等として評価されている。相愛大学非常勤講師。


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