2007年度第二回目のクリスタルチャペルコンサートは「メランコリーの愉しみ」と
題してジョン・ダウランドの作品をお聴き頂きます。 ルネサンス後期、すなわちイギリスのエリザベス朝に於て、ジョン・ダウランドは 自他ともに認める最高のリュート奏者でした。しかし彼は宗教上の理由から、念願の エリザベス女王付のリュート奏者にはなれず、その失望感を胸に、生涯の殆どをヨー ロッパ各地を巡り歩いたのでした。 晩年、イギリスへ戻ったダウランドは、イギリス 王室付きのリュート奏者の職を得るものの、時すでに遅く、ダウランドの心の支えで あったエリザベス女王はすでに亡くなり、世の中はジェームス1世の統治下となって おりました。世の中では新しいタイプのリュートを操る若いリュート奏者が活躍する 中、老才ダウランドは半ば忘れ去られた存在でありました。 ダウランドの作品に連ね る〈涙〉〈悲しみ〉〈暗闇〉そして〈死〉といった象徴的でメランコリックな言葉は このような彼の境遇ゆえといわれています。 しかしイギリスでは大きな失望感を味わったダウランドも、行く先々のヨーロッパ の宮廷や貴族からは最高の音楽家として迎えられたのですから、そんなに悪い人生で もなかったのかも知れません。 そして、あまりに完成された彼の作品に触れる時、ダウランドは自らの人生と音楽をオーバーラップし、メランコリーを楽しんでいたのだ 、とさえ思えるのです。いずれにせよ、ダウランドの作風はヨーロッパで16世紀末の 知識階級に流行った“メランコリー気質”とまさしく同調しており、“ダウランドの 憂愁”に人々は身をゆだねたのでした。 今日の楽器は7コース・リュートと9コース・オルファリオンを使います。7コー スリュートは典型的なルネサンスタイプのリュートでダウランドの作品の多くはこの 楽器を前提に書かれています。オルファリオンはリュートの代替楽器としてルネサン スのヨーロッパで考案された楽器で、リュートと同じ調弦なのですが、ガット弦では なく金属弦が張ってあり音色、形態の違いが楽しめる楽器として一時期もてはやされ た楽器です。 |
平井満美子/ソプラノ
神戸女学院大学音楽学部声楽科卒業。卒業後、古楽の演奏に興味を移し研究、中世よりバロックまでのレパートリーを持つ、数少ない古楽の歌い手として活動している。多くのコンサートと録音を行い、その演奏は新聞、音楽誌等にて常に高く評価されている。現在までに発売された佐野健二とのデュオCD6点全ては雑誌「レコード芸術」の推薦盤に選ばれ、デュオリサイタルに対しては「大阪文化祭本賞」を受賞している。日本、イギリスにてE.タブと共演、好評を博す。その広い音域と澄んだ歌声は古楽のジャンルにとどまらず、テレビコマーシャルの音楽にも活躍している。
佐野健二/ルネサンスリュート、オルファリオン
西洋音楽学者と邦楽琴奏者を両祖父に、ピアニストの母、声楽家の伯母を持つ恵まれた音楽環境で幼少より様々な音楽に親しみ、11歳よりギターを独学で始める。高校卒業後、岡本一郎氏に師事、同年九州ギター音楽コンクール入賞、翌年なにわ芸術祭で新人賞を受ける。19歳でイギリスに渡り、ロンドンのギルドホール音楽院入学、ギター、リュート、古楽全般を学ぶ。ギターを、H.クワイン、B.オー、の各氏、ルネサンスリュートをA.ルーリー、通奏低音をN.ノースの各氏に師事し、ギルドホール音楽院を首席でディプロマを得る。在学中、BBC・TV主催のジュリアン・ブリーム・マスタークラスの受講生に選ばれその模様は全英に放送される。卒業後、J.リンドベルイ氏にバロックリュートを学ぶ。内外の演奏活動に対し、「ジョン・クリフォード・ペティカン賞」「ロンドン芸術協会選出1978年度新人音楽家」「大阪文化祭奨励賞」「音楽クリティック・クラブ新人賞」「神戸灘ライオンズクラブ音楽賞」「大阪文化祭賞」(二回)を受ける。現在、ルネサンス、バロック期の撥弦楽器を中心に、独奏・伴奏・通奏低音奏者として演奏、録音活動を行っているが、そのレパートリーは民族音楽より現代音楽にまで及んでいる。相愛大学非常勤講師。アーリーミュージックカンパニー主宰。