EMC
クリスタルチャペルコンサート
シリーズ2006年
平井満美子&佐野健二
演奏風景、プログラム


第89回
ジュリオ・カッチーニ

2006.2.22.
平井満美子/ソプラノ 佐野健二/リウトアテオルバート、アーチリュート

2006.02.22.



 1995年1月から始まりました「千里阪急ホテル・クリスタルチャペルコンサート」は今年2006年で12年目を迎えます。これもご来場いただきました皆様のお陰と心より感謝申し上げます。今年は「カメラータの目論み」と題しまして、イタリア初期バロック期の作曲家に焦点を当て演奏致します。
 16世紀末のイタリアフィレンツェのジョヴァンニ・デ・バルディ伯爵邸にて古代ギリシャ音楽劇の復興を論じた人々がおりました。"カメラータ"と呼ばれる彼らは、古代ギリシャ音楽の説得力を今日に生かし、情緒、感情を表し、語るように歌う、という新しいタイプの音楽を提唱したのです。
 言葉と音との関係がより重視され、言葉よりも対位法的手法を大事にせざるを得ないルネサンスのポリフォニ一(多声音楽)に代わり、言葉の抑揚や意味、そして感情の表出を重んじる伴奏付き単旋律であるモノディーという様式が生み出されました。そこでは言葉と音との結び付き、音楽とは言葉とリズムであり、楽音はそれらをより効果的に助長するものであり、音楽を通じていかに正しく言葉の意味を伝えるかが実践されています。
 本日演奏致しますジュリオ・カッチーニ (c.1550-1618) はカメラータの中心メンバーであり、第一歌曲集 "新音楽 Le Nuove Musiche" は1602年(フィレンツェ暦1601年)に出版されています。カメラータの理念を提唱した初期バロック歌曲集にはまさに"ニューミュージック"というタイトルがふさわしいと言えるでしょう。
 リュートもルネサンスからバロックにかけてその音楽的要求に伴い形態を変化させて行きました。モノディーを支えるのに必要な豊かな低音を供給できる長い低音弦を持ったアーチリュートが考案されました。新しい時代の音楽には不可欠な楽器としてアーチリュートはバロック期を通して伴奏、通奏低音、そして独奏にと幅広く愛好されました。本日演奏するソロ曲の作者アレッサンドロ・ピチニーニ (1566-c.1638) は名演奏家として名を馳せ、この楽器の為に多くの優れた作品を残しています。


Le Nuove Musiche
Giulio Caccini (c.1550-1618)
Mamiko Hirai & Kenji Sano

トッカータ Taccata XIX / Alessandro Piccinini

Al fonte, al prato 泉に野に
新鮮な風が吹き込んでくる 退屈や苦しみから逃れて
この幸せな日々には 笑いと喜び そして私達の愛

Ohim・, begli occhi おお美しき瞳よ
ああ美しい瞳よ もうあなたに会えないのか 私に残された人生を
あなたの甘いまなざしからも 泣く事からも 遠く離れて過ごすだろう

Amarilli mia bella アマリリ麗し
Giulio Caccini / Giovanni Nauwach
君こそわが恋人 もし不安におののくのなら矢をとって
この胸を開き心に刻まれた言葉を見よ アマリリこそわが恋人

A quei sospir ardenti あの熱きため息に
偽りの熱情を吐き出すあの人のため息や
愛の悲しみの涙を真に受けキューピットの矢で
傷つきまどわされた私のため息 涙はただの水と風

トッカータ Taccata XIII / Alessandro Piccinini

Con le luci d'un bel ciglio 美し瞳の光で
バラ色に輝くほほ ルビーのごときくちびるで
いつも彼女は私に戦いを挑んでくる 私には敵に打ち勝つ力がない

パッサカリア Passacaglia / Alessandro Piccinini

Vedr・'l mio sol 我が太陽を見ん
あなたのまなざしが放つ光が 私を照らすのを見たい
私の人生の光と喜びよ 他の喜びよりもあなたを想い 悲しむ事がうれしい

Torna, deh torna ああ戻り来れ
戻っておくれ 君は何処に隠れていうるのか 何をしているのか
私の腕に飛び込んで来て! 苦い悲しみが私の心をせめる
どうか 私の声に耳を傾けておくれ

使用楽器
14-course Liuto attiorbato = Junji Nishimura 1985 pitch a' = 466 Hz.
14-course Archlute = Martin Haycock 1999 pitch a' = 415 Hz.


平井満美子/ソプラノ
 神戸女学院大学音楽学部声楽科卒業。卒業後、古楽の演奏に興味を移し研究、中世よりバロックまでのレパートリーを持つ、数少ない古楽の歌い手として活動している。多くのコンサートと録音を行い、その演奏は新聞、音楽誌等にて常に高く評価されている。現在までに発売された佐野健二とのデュオCD6点全ては雑誌「レコード芸術」の推薦盤に選ばれ、デュオリサイタルに対しては「大阪文化祭本賞」を受賞している。日本、イギリスにてE.タブと共演、好評を博す。その広い音域と澄んだ歌声は古楽のジャンルにとどまらず、テレビコマーシャルの音楽にも活躍している。

佐野健二/リュート
 英国・ギルドホール音楽院首席卒業。ギターを岡本一郎、H・クワイン、B.オー、J・ブリームの各氏、リュートをA.ルーリー、N.ノース、J.リンドベルイの各氏に師事。演奏活動に対し、「ジョン・クリフォード・ペティカン賞」「ロンドン芸術協会選出1978年度新人音楽家」「大阪文化祭奨励賞」「音楽クリティック・クラブ新人賞」「神戸灘ライオンズクラブ音楽賞」「大阪文化祭賞」(二回)を受ける。現在、ルネサンス、バロック期の撥弦楽器を中心に、独奏・伴奏・通奏低音奏者として演奏、録音活動を行っているが、そのレパートリーは民族音楽より現代音楽にまで及んでいる。相愛大学音楽学部非常勤講師。


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