EMC
クリスタルチャペルコンサート
シリーズ2005年
平井満美子&佐野健二
演奏風景、プログラム

第83回
ルネサンス・ファンタジア

2005.01.19.
平井満美子/ソプラノ 佐野健二/リュート

2005.01.19.



 2005年度最初のクリスタルチャペルコンサートは16世紀イギリスの「ファンタジア」と「バラード」をお聴きいただきます。
 「Balladeバラード」と言うと現代ではセンチメンタルなラブソングというイメージが強いのですが、もともとは14、5世紀のフランスの定型詩を指します。語源はプロバンス語の「balar踊る」から来ており、初期の頃はダンス音楽としての要素も高かったようです。その後、音楽用語としてのバラードは自由な形式の叙事詩、つまり物語歌そのものを指すようになっていきます。イギリスでもはやり歌のメロディーに叙事詩がつけられたものがバラードと呼ばれていました。
 バラードの旋律は即興的に歌いはじめられたものが徐々に定着していったものが多い訳ですが、歌詞は叙事詩だけにルネサンス時代の様々な風潮をよく表しておりました。また同じメロディーに複数の歌詞が見いだされることも多々あります。そしてイギリスのバラード(流行歌)は旋律のきれいさと普遍性故、英語圏だけでなく世界中に広まり、歌詞を伴わない器楽曲の題材にも多数用いられました。
 「Fantasiaファンタジア」はルネサンス時代の最も自由闊達な楽曲につけられた用語。形式等の制約に捕われることなく作者の自由な発想と技量を発揮できるこの楽曲は、ルネサンス器楽曲の中心といっても過言ではありません。日本語では幻想曲と訳されている「ファンタジア」の語源は、「空想の産物=想像力」とか「自由奔放な想像=きまぐれ」といったギリシャ語の「Phantasiaファンタシア」にあります。
 ルネサンスのイギリスはリュート音楽における黄金時代と呼ばれ、イギリス・リュート音楽における最高峰ジョン・ダウランド(1563~1626)を始めとするたくさんのリュート音楽家(演奏家兼作曲家)が活躍したのですが、ファンタジアも他のイギリスにおけるルネサンス音楽同様、イタリアからの影響を色濃く受けておりました。多大な影響力を持った音楽家としてイタリア生まれで、イギリスで活躍したアルフォンソ・フェラボスコ(ca1575-1628)があげられます。彼のファンタジアはジョン・ダウランドの息子ロバート・ダウランド編纂の「The Variety of Lute Lessons」におさめられています。エリザベス朝を代表するリュート奏者のひとりであるアンソニー・ホルボーン(1545?-1602)は「シターン・ファンタジア2曲」「バンドーラ・ファンタジア2曲」「リュート・ファンタジア3曲」を作曲しています。
 音楽においては舞曲の時代といわれたルネサンス時代。才気豊かな作曲家にとり自らの想像的能力を最も自由に制限なくふるまえるファンタジアとバラードに多くの名作が残されているのは至極当然なことと考えられます。
 それでは、イギリスの古き良き時代のバラードとファンタジアが皆様をしばし、空想と幻想の世界へとご案内できれば幸いです。




Renaissance Fantasia

programme

Lute Fantasia No.1 / Anthony Holborne

The old year now away is fled
古き年は過ぎ去り 新しき年がやってきた
さあ 私たちの罪をあらい流し 神が届けてくれた新年を喜ぼう

The border lament(mp3 2.8MB)
国境の嘆き 恋人は私のために百合の花がいっぱいの家を建てた
でも兵士は彼を殺し 王はその家を奪った 私は彼の墓を緑の草で満たした

A Fancy / John Dowland

If floods of tears
涙の海が そして私の号泣が 私の心を癒し
過ちを許してくれるのなら 私は涙を流し 泣く そして呻く

The three ravens
三羽のカラスが木の上から 殺された騎士を見おろしている
騎士を見守るしかは 夜がくる前に彼を葬り 自らも死んでいく

Fantasia / Alfonso Ferrabosco

The boys of Kilkenny
キルケニーの少年は いま兄弟姉妹母と別れねばならない
いとしいあの人と故郷をむねに いまロンドンにひとり

This merry pleasant spring
このうれしい春に 小鳥たちは鳴く ナイチンゲールはさえずり
ツバメは情熱的に ロビンは繰り返し ひばりはふるえるように

A Fantasia / John Dowland

Miserere my maker
我が救い主よ 罪により落胆し みじめに苦しんでいる私に慈悲を
強い苛立ち 苦悩が私を死に追いやる 絶え間ない私の泣き声

Instrument
7-course Lute = Martin Haycock 1990

アーリーミュージックカンパニーでは、千里阪急ホテル・クリスタルチャペルに於いて1995年1月より「佐野健二のリュート音楽の楽しみ」「若手演奏家シリーズ」「セレクテッド・ミュージシャン・シリーズ」「古楽の様々シリーズ」と様々なコンサートを企画開催して参りました。2004年度からはそれらを統合し「クリスタルチャペルコンサート」として平井満美子&佐野健二のシリーズコンサートを開催しています。クリスタルチャペルの豊かな響きと雰囲気の中、ルネサンスからバロックの時代に最も花開いたリュート音楽の数々をお楽しみ下さい。

平井満美子/ソプラノ
 神戸女学院大学音楽学部声楽科卒業。卒業後、古楽の演奏に興味を移し研究を始め、E.カークビー、J.キャッシュ、C.ボットらに学ぶ。現在、ルネサンスよりバロックを中心に、イギリス、フランス、イタリア、スペイン、ドイツの幅広いレパートリーを持つ、数少ない古楽の歌い手として活動している。多くのコンサートと録音を行い、その演奏は新聞、音楽誌等にて常に高く評価されている。現在までに発売された佐野健二とのデュオCD6点全ては雑誌「レコード芸術」の推薦盤に選ばれ、デュオリサイタルに対しては「大阪文化祭本賞」を受賞している。アーリーミュージックカンパニー主宰。

佐野健二/ルネサンスリュート
 英国・ギルドホール音楽院首席卒業。ギターを岡本一郎、H.クワイン、B.オー、J.ブリームの各氏、リュートをA.ルーリー、N.ノース、J.リンドベルイの各氏に師事。演奏活動に対し、「ジョン・クリフォード・ペティカン賞」「ロンドン芸術協会選出1978年度新人音楽家」「大阪文化祭奨励賞」「音楽クリティック・クラブ新人賞」「神戸灘ライオンズクラブ音楽賞」「大阪文化祭賞」(二回)を受ける。現在、ルネサンス、バロック期の撥弦楽器を中心に、独奏・伴奏・通奏低音奏者として演奏、録音活動を行っているが、そのレパートリーは民族音楽より現代音楽にまで及んでいる。相愛大学非常勤講師。アーリーミュージックカンパニー主宰。


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