EMC
クリスタルチャペルコンサート
シリーズ2004年
リュートソングの様々
平井満美子&佐野健二
演奏風景、プログラム

第79回
アマリリ麗し

2004.03.17.
平井満美子/ソプラノ 佐野健二/リウトアテオルバート、アーチリュート

2004.05.19.



 クリスタルチャペルコンサート・シリーズ2004・リュートソングの様々・第79回は「イタリンア・モノディー/アマリリ麗し」です。
 17世紀、神を頂点とする均整のとれたルネサンスから人間中心のバロックへと世の中は移り変わり、音楽にも大胆な主張や新しい手法が生み出されます。文芸復興の国イタリアはバロック音楽に於いてもヨーロッパ中に多大な影響をあたえました。歌曲に於いては、言葉と音との関係がより重視され、言葉よりも対位法的手法を大事にせざるを得ないルネサンスのポリフォニ一(多声音楽)に代わり、言葉の抑揚や意味、そして感情の表出を重んじる伴奏付き単旋律であるモノディーという様式が登場してきました。そこには言葉と音との結び付き、音楽とは言葉とリズムであり、楽音はそれらをより効果的に助けるものであり、音楽を通じていかに正しく言葉の意味を伝えるかが実践されました。本日のタイトルでもある有名な「アマリリ麗し」の作曲者ジュリオ・カッチーニは第一歌曲集「新音楽 Le Nuove Musiche, Firenze 1601」に於て、楽譜のみならず序文に多くのスペースを費やし、声楽における感情表出の具体的な方法や装飾を示し、ギリシャ悲劇に範を求めたカメラータCamerata(17世紀イタリアにおける、貴族や音楽家、詩人、哲学者といった知識階級の集まり)の人々の考えを表わしました。
 ルネサンスのリュートソングは歌とリュートの弾くべき音がすべてタブラチュア譜で書かれた楽譜でしたが、初期のバロック声楽の伴奏譜は通奏低音という手法で書かれておりました。バス譜表に最低音のみ書かれており、和音の構成音を示す数字がつけられているだけの見た目には簡素な楽譜です。通常、楽器の指定もなく、かなり即興性の強い音楽と言えます。代表的な通奏低音楽器としてリュートやチェンバロ、オルガン、ハープといった楽器があげられますが、モノディーにおいてはリュートが声の様々な陰影や表情に最も寄り添うことの出来る楽器として愛好されました。カッチーニも前述の「新音楽」の序文で「歌の伴奏に最もふさわしい楽器はリュート」と明言しています。



《Salamone Rossi ロッシ (1570-1630)》
歌う小鳥よ Quel augellin che canta

優しく歌う小鳥はつやっぽい ブナの木で 樅の木で
この燃える恋はあなたの欲求 あなたが祝福するこの恋人を

《Alessandro Grandi グランディ (?-1630) 》
ああ汝いかに麗しきかなO quam tu pulchera es

なんと美しい人 なんと美しい小鳥 よみがえれ恋人よ 花嫁よ
汚れなき人よ 愛の力がなくなってしまうから

《Alexandri Piccinini ピチニーニ (1566-c.1638)》
サラバンドのアリアAria di Saravanda in Varie Partite


《Barbara Strozzi ストロッツィ (1619-? )》
お聞き恋する人たちよ Udite, amanti, la cagione

私が泣いている訳を聞いてくれ 私が信じ熱愛していた偶像は滅びた
涙はわたしを養い 悲しみはわたしの喜び ため息はわたしを癒す

《Barbara Strozzi ストロッツィ (1619-? )》
私の涙 Lagrime mie

息も絶えるこの激しい痛みを押し流してくれないのか
わが愛しのリディアは捕らわれの身
死にも情けがあるのなら我が命を奪え 悲しみの目よなぜ泣かぬ

《Alessandro Piccinini ピチニーニ》
トッカータ Taccata XIII


《Giulio Caccini カッチーニ (c.1550-1618)》
我が太陽を見ん Vedro'l mio sol

あなたの視線が向く前に私は死ぬ ああ私の喜びである光よ
私を苦しめるのはあなたのつれなさ
私は死んでも夜明けのやさしい光をみたい

《Giovanni Girolamo Kapsberger カプスベルガー (c.1580-1651)》
トッカータ Toccata No.5


《Giulio Caccini カッチーニ (c.1550-1618)》
アマリリ麗し Amarilli mia bella

君こそわが恋人 もし不安におののくのなら矢をとって
この胸を開き心に刻まれた言葉を見よ アマリリこそわが恋人

使用楽器 pitch a' = 466 Hz.
14-course Liuto attiorbato = Junji Nishimura 1985
14-course Archlute in G = Martin Haycock 1999



平井満美子/ソプラノ
 神戸女学院大学音楽学部声楽科卒業。卒業後、古楽の演奏に興味を移し研究、中世よりバロックまでのレパートリーを持つ、数少ない古楽の歌い手として活動している。多くのコンサートと録音を行い、その演奏は新聞、音楽誌等にて常に高く評価されている。現在までに発売された佐野健二とのデュオCD6点全ては雑誌「レコード芸術」の推薦盤に選ばれ、デュオリサイタルに対しては「大阪文化祭本賞」を受賞している。日本、イギリスにてE.タブと共演、好評を博す。その広い音域と澄んだ歌声は古楽のジャンルにとどまらず、テレビコマーシャルの音楽にも活躍している。

佐野健二/リウトアテオルバート、アーチリュート
 英国・ギルドホール音楽院首席卒業。ギターを岡本一郎、H・クワイン、B.オー、J・ブリームの各氏、リュートをA.ルーリー、N.ノース、J.リンドベルイの各氏に師事。演奏活動に対し、「ジョン・クリフォード・ペティカン賞」「ロンドン芸術協会選出1978年度新人音楽家」「大阪文化祭奨励賞」「音楽クリティック・クラブ新人賞」「神戸灘ライオンズクラブ音楽賞」「大阪文化祭賞」(二回)を受ける。現在、ルネサンス、バロック期の撥弦楽器を中心に、独奏・伴奏・通奏低音奏者として演奏、録音活動を行っているが、そのレパートリーは民族音楽より現代音楽にまで及んでいる。相愛大学音楽学部非常勤講師。


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