EMC
クリスタルチャペルコンサート
シリーズ2004年
リュートソングの様々
平井満美子&佐野健二
演奏風景、プログラム

第77回
流れよ我が涙

2004.01.14.
平井満美子/ソプラノ 佐野健二/リュート、オルファリオン

2004.01.14.



 アーリーミュージックカンパニーでは、クリスタルチャペルに於いて1995年1月より「佐野健二のリュート音楽の楽しみ」「若手演奏家シリーズ」「セレクテッド・ミュージシャン・シリーズ」「古楽の様々シリーズ」と色々なコンサートを企画開催して参りましたが、2004年度からそれらを統合し「クリスタルチャペルコンサート」として開催致します。新たな試みとして、お仕事の後ゆっくりお楽しみ頂けるよう、開演時間を7時半とした休憩なしの演奏会です。また当日券、前売り券に加え、学生券、2回券、3回券、6回券の割引チケット制度も開始致しました。シリーズ2004(第77回〜82回)は原点に立ち返り、平井満美子&佐野健二による「リュートソングの様々」、今宵第77回は「流れよ我が涙」と題してイギリスルネサンスの最高峰ジョン・ダウランドの作品をお聴き下さい。
 ダウランドは自他共に認める最高のリュート奏者とされながらも、宗教上の理由からか、憧れのエリザベス女王付きの宮廷音楽家の地位にはつけませんでした。その失意を胸にイギリスを離れたダウランドは、人生の大半をヨーロッパ大陸で過ごしました。晩年、イギリスへ戻ったダウランドは、念願のイギリス王室付きのリュート奏者の職を得るものの、時すでに遅く、世の中はジェームス1世の統治下。ダウランドの心の支えであったエリザベス女王は亡くなっていました。
 ダウランド特有のメランコリックな響きはこのような不遇の人生が原因ともいわれます。しかし本当にそうなのでしょうか?イギリスを離れたダウランドは、行く先々で最高のリュート奏者として迎えられました。失意のどん底にあったとしても彼の才能は自らの嘆きを癒すに十分なものだったと想像できます。多くの優れた作品はデンマーク王に仕えた時代に作り出されているのですし。  メランコリーは16世紀末のエリザベス朝イギリスの流行で、ダウランドの特性はその風潮と同調しました。ダウランドは不遇を憂愁に置き換え、メランコリーを演じ、楽しんでいたのかもしれません。あまりに卓越した彼の作品からは不運な音楽家のイメージは浮かんできません。
 今日楽器は7コース・リュートと9コース・オルファリオンを使います。7コースリュートは典型的なルネサンスタイプのリュートでダウランドの作品の多くはこの楽器を前提に書かれています。オルファリオンはリュートの代替楽器としてユーロッパで考案された楽器で、リュートと同じ調弦なのですがガット弦ではなく金属弦が張ってあり音色、そして形態の違いが単しめる楽器で一時期もてはやされた楽器です。




John Dowland
(1563~1626)

programme

Preludium* プレリュード

Go crystall tears* 透明な涙よ
おまえの哀れみの力で しおれた花が露を得て生き返るように
あの人の心に僕のことを生き生きと思いださせておくれ

Flow my tears 流れよ我が涙
夜の黒い鳥が歌う闇の中で 僕はひとり打ちしおれて生きよう
幸いなるかな 地獄に堕ちてこの世のあわれ蔑みを感じ得ぬ者よ

Sir John Langton's Pavan ラントン卿のパバーヌ

O sweet wood お々甘美な森よ
名声の欲望からも愛の喜びからも身をひいて この悲しみの森にもどる喜びよ
鳥に木に大地に このことを伝えよう あの女が無分別で浅はかであることを
 お々甘美な森よ この孤独をどれだけ愛していることか

King of Denmark, His Galliard デンマーク王のガリアルド

Al ye, whom love or fortune 愛や運命に裏切られたものよ
喜びを夢み悲しみに生きる者よ 希望の満たされる日に会えぬ者よ
耳と涙をかしてくれ 傷ついた白鳥の様に悲しみを歌う私に
空しく涙し 溜息をつき 泣く私に慰めを そして嘆きに終わりを

Fortune my foe* 我が運命の敵

Shall I sue* 乞い求める
美しいあの人はお金では買えぬ真の宝 想い詰めるだけではだめなのだ
女神の裁きは正しい あの人は私の嘆きを憐れんでもくれない
ああ神よごらんあれ あの人のために潔く死にゆく様を

Farewell 別れ

Come heavy sleepe 来たれ重い眠り
この嘆き疲れた目を閉じて遅れ 湧いてやまぬ涙の泉が命の息をふさぐ
来たれ甘い眠り さもなくば永遠の死あるのみ


使用楽器
9-course Orpharion* : Stephan Barber 1990
7-course lute : Martin Haycock 1990


平井満美子/ソプラノ
 神戸女学院大学音楽学部声楽科卒業。卒業後、古楽の演奏に興味を移し研究、中世よりバロックまでのレパートリーを持つ、数少ない古楽の歌い手として活動している。多くのコンサートと録音を行い、その演奏は新聞、音楽誌等にて常に高く評価されている。現在までに発売された佐野健二とのデュオCD6点全ては雑誌「レコード芸術」の推薦盤に選ばれ、デュオリサイタルに対しては「大阪文化祭本賞」を受賞している。日本、イギリスにてE.タブと共演、好評を博す。その広い音域と澄んだ歌声は古楽のジャンルにとどまらず、テレビコマーシャルの音楽にも活躍している。

佐野健二/オルファリオン、リュート
 英国・ギルドホール音楽院首席卒業。ギターを岡本一郎、H・クワイン、B.オー、J・ブリームの各氏、リュートをA.ルーリー、N.ノース、J.リンドベルイの各氏に師事。演奏活動に対し、「ジョン・クリフォード・ペティカン賞」「ロンドン芸術協会選出1978年度新人音楽家」「大阪文化祭奨励賞」「音楽クリティック・クラブ新人賞」「神戸灘ライオンズクラブ音楽賞」「大阪文化祭賞」(二回)を受ける。現在、ルネサンス、バロック期の撥弦楽器を中心に、独奏・伴奏・通奏低音奏者として演奏、録音活動を行っているが、そのレパートリーは民族音楽より現代音楽にまで及んでいる。相愛大学音楽学部非常勤講師。


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