クリスタルチャペルコンサート
Young Musician's Series No.5
フレット・バロック Fret Baroque
2000年10月27日(金)P.M.7:00


大西万喜/ヴィオラ・ダ・ガンバ
多武和民/マンドリン
佐野健二/アーチリュート(通奏低音)
2000.10.27.

大西 万喜 ONISHI Maki/ヴィオラ・ダ・ガンバ
 大阪音楽大学作曲学科楽理専攻卒業。大学入学とともにリコーダーの演奏を始め、花岡和生氏に師事。在学中より、リコーダー・コンソートやバロックの室内アンサンブルにおいてリコーダー奏者として活動を行う。また英国キ−ル大学のサマースクールにてパメラ・トービー氏のマスタークラスに参加。以後3年間に渡って毎夏渡英し、同氏に師事する。大学卒業後もリコーダーの演奏を続けるが、次第にヴィオラ・ダ・ガンバに興味を持ち始め、1997年より福沢宏氏に師事。2000年福岡古楽音楽祭にてヴィーラント・クイケン氏の公開レッスンを受講する。現在、アーリーミュージックカンパニーの「EMCの集い」に参加し、通奏低音奏者および、ソリストとしての演奏活動を行っている。
多武 和民 TABU Kazuhito/マンドリン
 熊本県生まれ。関西外国語大学卒業。15歳よりマンドリンを始める。第8回香川ギター・マンドリンコンクール最優秀賞、金賞を受賞。近年はバロック時代の音楽に興味を抱き、1998年日本古楽コンクールではファイナリストとして高い評価を得る。同年夏ベルギー古楽セミナー参加、リュート奏者今村泰典氏の指導を受ける。1999年には東京・近江楽堂にてソロリサイタルを行い好評を得る。現在大阪を中心にソロ、アンサンブル等で活躍中。マンドリンを粂井謙三、バロック様式を宇田川貞夫の各氏に師事。
佐野健二 SANO Kenji/アーチリュート(通奏低音)
 英国・ギルドホール音楽院首席卒業。ギターを岡本一郎、H・クワイン、B.オー、J・ブリームの各氏、リュートをA.ルーリー、N.ノース、J.リンドベルイの各氏に師事。演奏活動に対し、「ジョン・クリフォード・ペティカン賞」「ロンドン芸術協会選出1978年度新人音楽家」「大阪文化祭奨励賞」「音楽クリティック・クラブ新人賞」「神戸灘ライオンズクラブ音楽賞」「大阪文化祭賞」(二回)を受ける。現在、ルネサンス、バロック期の撥弦楽器を中心に、独奏・伴奏・通奏低音奏者として演奏、録音活動を行っているが、そのレパートリーは民族音楽より現代音楽にまで及んでいる。朝日カルチャーセンター、大阪音楽大学、相愛大学音楽学部非常勤講師。



Programme

《 シンプソン Christopher Simpson( c1605-1669 )》
ディヴィジョン 変ロ長調、ニ短調
( London, 1659 )
Division in Bb-Major, D-minor from ' The Division Viol '

《 アーベル Karl Friedrich Abel( 1723-1787 )》
ヴィオラ・ダ・ガンバと通奏低音のためのソナタ ホ短調
( Amsterdam, 1771 )
Sonata in E-minor for Viola da Gamba and Basso continuo

《 マレ Marin Marais( 1656-1728 )》
組曲 イ短調(ヴィオール曲集第3巻)より
( Paris, 1711 )
Suite in A-minor from ' Pieces de violes, 3e livre '
Prelude - Fantaisie - Allemande - Courante - Sarabande - Menuet- Aure - Grand Ballet

休憩 - Interval

《 フォンタナ Giovanni Battista Fontana( ?〜1631 )》
ソナタ 第2番
(Venezia, 1641)
Sonata No.2
《 バルベラ Emmanuele Barbella( 1718-1777 )》
マンドリンと通奏低音のためのソナタ ニ長調

Sonata in D-major For a Mandolin and Basso Continuo
Largo - Allegro - Fugato - Andantino alla Francese - Gavotta

《 コレッリ Arcangero Corelli( 1653-1713 )》
ソナタ ニ短調 作品5-12“ラ・フォリア”
(Roma, 1700)
SONATA in D-minor Opus 5 No.12 “La Follia”
    
《 ヴィヴァルディ Antonio Vivaldi( 1677-1741 )》
トリオソナタ ト短調
(Venezia, 1705)
SONATA in G-minor RV.85
Andante molto - Larghetto - Allegro


 フレットとは棹のある弦楽器の指板を横に区切っている棒状のもののことで、音の切れや響きをよくする目的に使われます。アジアや中近東などでは紀元前2000年頃からあったのですが、ヨーロッパでは14世紀になってようやく現れてきました。材質も動物の骨や象牙、木材、金属、と楽器によって様々です。現在、フレットを持っている楽器で最もポピュラーなものはギターでしょう。ギターのフレットは金属製で指板に埋め込まれ固定されていて、今回使う3種類のフレット属楽器の中ではマンドリンが同じタイプです。反対にアーチリュートとヴィオラ・ダ・ガンバはガットの可動式フレットをもっています。しかし、フレットを持つ同属の楽器とは言っても演奏方法は3台とも異なり、アーチリュートは指で、マンドリンはピックで、それぞれ弦を弾いて音を出すのに対し、ヴィオラ・ダ・ガンバは弓で弦をこすって発音します。
 弦を弾いて音を出す撥弦楽器は古く中央アジアに端を発し、一方は東へ渡り中国や日本の≪琵琶≫となり、また一方では西へアラブの≪ウード≫を経て、ヨーロッパの≪リュート≫となりました。そのリュートの一種で、11世紀頃から中世・ルネッサンス期に存在した≪マンドーラ≫が小型化され生まれものがマンドリンです。ヴィオラ・ダ・ガンバは形こそヴァイオリン属に似ていますが、調弦方法などから見ると、リュートから派生したものと考えられています。
 イギリスの作曲家であるシンプソンは、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者、音楽学者としても知られていました。彼の残した「The Division Viol」は、当時イギリスを代表する作曲家たちが賞賛の詩を寄せるほどの成功を収め、1665年の再版時には国外への普及を考慮して、英語とラテン語による解説が併記されたほどです。イギリスではグラウンド(定旋律)に基づくディヴィジョン(変奏)の形式が好まれ、はやり歌の旋律が多く使われています。シンプソンのディヴィジョンは創意にあふれたとても技巧的なもので、2台のガンバのための作品も書かれています。
 アーベルはドイツ中西部の音楽一族に生まれますが、後半生をロンドンで過ごしました。18世紀後半のロンドンは1,000人以上収容できる大型のホールが続々と建設され、そこで定期的にコンサートが催されるようになりと、その人気はオペラと肩を並べるまでに発展していきます。アーベルはJ.C.バッハと共同のコンサートを5年以上に渡って企画し、ドイツから多くの演奏家を招きました。彼はまたヴィオラ・ダ・ガンバ奏者としても活躍したとされていますが、彼が世を去るころ、この楽器はすでに流行遅れとなっており、今世紀に入って古楽復興の気運が高まるまでしばらく表舞台から姿を消す運命にあります。
 ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者として18世紀フランスの中心的存在であったマレは、全生涯をパリで、しかもその大部分を宮廷付きの演奏家として過ごしました。マレはヴィオラ・ダ・ガンバのための作品集を5巻出版しており、第3巻は彼が55歳の時に出版されました。これらの作品数は全部で500曲以上にものぼり、その多くは舞曲の形式で、旋律的とても優美なものから和声に重点をおいて音の厚さを強く感じさせるものまで、非常に幅広い表情を持っています。
 フォンタナは17世紀初頭ローマやヴェネチアで活躍したと言われている作曲家ですが、その生涯についての詳しい資料はほとんど残されておりません。現存する作品は、彼の死後1641年ヴェネチアで出版されたソナタ集が唯一の物です。ソナタ第2番はフォンタナ特有の対話を基調とし、どこか懐かしさを感じさせる牧歌的なメロディと快活なダンスの部分とが交互に表れ、また時に技巧的なパッセージもちりばめられた作品です。
 バルベラはナポリ出身の音楽家で、晩年は劇場のヴァイオリン奏者を努めました。ナポリ楽派と呼ばれる作曲家の一人ですが、作品のほとんどパリとロンドンで出版され、彼の作品のいくつかは、現在パリ音楽院とスゥエーデンのウプサラ大学に残されています。ソナタ ニ長調は5つの組曲になっており、マンドリン特有の個性的な響きを効果的に採り入れた作品になっています。
 コレッリはローマを中心に活躍した作曲家で、トリオ・ソナタ形式やコンチェルト形式などバロック音楽の礎を築き、後世に大きな影響を与えた人物です。ヴァイオリン奏者、器楽アンサンブルの指導者としての評価も高く、出版技術の急成長と重なって彼の作品はヨーロッパ中に広まっていきました。<ラ・フォリア>は独奏ヴァイオリンのための12番目のソナタのにあたリ、もともとポルトガルに古くから伝わるフォリア(狂気じみた、という意味。テンポが速く騒々しいので、踊り手たちが正気を失ったように見えるところから。)といわれる舞曲の旋律を主題とし、それに23の変奏が次々とドラマティックに展開されていきます。
 ヴィヴァルディは非常に多作家であり、マンドリンやリュートの為の物もいくつか書いていますが、同時代の人たちは、作曲家としてよりもヴァイオリン奏者として彼を賞賛していました。ヴィヴァルディは約350曲の協奏曲を残しており、その半分以上がヴァイオリンのためであることからもこの事実が伺えます。ソナタ ト短調は1720年代、ボヘミアの貴族であったヨハン・ヨゼフ・フォン・ウルトビー伯爵のために作曲され、オリジナルの編成はソプラノリュート・ヴァイオリンとチェロ及び通奏低音となっています。(文責:大西、多武)


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