クリスタルチャペルコンサート
Young Musician's Series No.4
トリオソナタの楽しみ Trio Sonata for Rercorder & B.C.
2000年6月15日(木)P.M.7:00


向江昭雅、奥田直美/リコーダー、ヴォイスフルート
大西万喜/ヴィオラ・ダ・ガンバ
浅海恵理/チェンバロ
2000.6.15.

向江 昭雅 MUKAE, Akimasa (リコーダー、ヴォイスフルート recorder,voice flute)
東京都出身。国立音楽大学楽理学科卒業後、イタリアのミラノ市立音楽院古楽器科に留学。リコーダーを鯉沼広行、山岡重治、ペドロ・メメルスドルフ、室内楽をラウラ・アルヴィーニ、音楽学を礒山雅、リコーダー製作を平尾重治の各氏に師事。渡欧中は、ミラノ、ボローニャを中心に演奏活動を行う。1990年帰国後は、東京を中心に全国各地で活躍中。また、平尾工房においてリコーダー製作にも携わっている。“イ・カラヴァッジェスキ”主宰。“シンポシオン”、“レ・サンク・サンス”メンバー。茗溪学園音楽科リコーダー講師。CD『フランスのリコーダー・トリオ / レ・サンク・サンス』を今年4月にリリース。
奥田 直美 OKUDA, Naomi (リコーダー、ヴォイスフルート recorder,voice flute)
大阪音楽大学短期大学部フルート専攻卒業。卒業後、古楽に興味をもち、リコーダー、フラウト・トラヴェルソを始める。1997年、イギリス・ギルドホール音楽院大学院課程古楽科に入学。翌年、同校を演奏家ディプロマを授与され卒業。リコーダーを中村洋彦、向江昭雅、パメラ・トービー、ピアーズ・アダムズの各氏に師事。フラウト・トラヴェルソ、バロック奏法をスティーヴン・プレストン氏に師事。卒業後、ロンドンにてリサイタルを開催。昨年、大阪フェニックスホールにてリサイタルを開催。現在、後進の指導にあたる傍ら、バロック音楽のみならず、19世紀音楽やイギリス現代曲、アイルランド音楽などの演奏も行っている。よみうり堺文化センター・リコーダー講師。アイルランド音楽バンド「Carolan's Cafe」メンバー。
大西 万喜 ONISHI, Maki (ヴィオラ・ダ・ガンバ viola da gamba)
大阪音楽大学作曲学科楽理専攻卒業。大学入学とともにリコーダーの演奏を始め、花岡和生氏に師事。在学中より、リコーダー・コンソートやバロックの室内アンサンブルにおいてリコーダー奏者として活動を行う。また英国キ−ル大学のサマースクールにてパメラ・トービー氏のマスタークラスに参加。以後3年間に渡って毎夏渡英し、同氏に師事する。大学卒業後もリコーダーの演奏を続けるが、次第にヴィオラ・ダ・ガンバに興味を持ち始め、1997年より福沢宏氏に師事。翌年英国ダーティントン国際サマースクールにてアリソン・クラム氏のマスタークラスを受講する。現在、アーリーミュージックカンパニーの「EMCの集い」に参加し、通奏低音奏者および、ソリストとしての演奏活動を行っている。
浅海 恵理 ASAMI, Eri (チェンバロ cembalo)
大阪音楽大学作曲学科楽理専攻卒業。大学受験時にリュート歌曲やチェンバロといった古楽に出会い、大学入学時より本岡浩子、井岡みほの各氏に師事し、本格的にチェンバロを始める。バロック・アンサンブルの授業ではアンサンブルを経験し、学内の古楽コンサートにて毎年演奏する。学外ではアーリーミュージックカンパニーの「EMCの集い」にて通奏低音を受け持ち、研鑽を積む。各地のマスタークラス及びサマーコースにて、フランソワーズ・ランジュレ、ミッチ・メイヤーソン、アラン・ジェームス、フランソワーズ・マルマンの各氏にレッスンを受ける。大学卒業後、大阪音楽大学作曲学科楽理専攻・教育助手を経て、現在はソリスト、通奏低音奏者として「FMみのう」にてライブ演奏、千里阪急ホテル・クリスタルチャペルにてソロ・リサイタル開催等、演奏活動を行っている。



Programme

《ボワモルティエ J. B. Boismortier (1689-1755) 》
トリオソナタ イ短調 (Paris, 1732) Trio Sonata in a minor

Vivace - Largo - Allegro

《 テレマンG.P.Telemann (1681-1767) 》
デュオ ト短調 (Paris, 1738) Sonata en duo

Allegro - Andante - Vivace

《オトテール J.M. Hotteterre (1674-1763) 》
組曲 変ロ長調(Paris, 1715) Suite for Treble Recorder and Bass Continuo

Allemande (La Cascade de St.Cloud) - Sarabande (La Guimon) - Courante (L'Indiferente) -
Double - Rondeau (Le Plaintif) - Menuete (Le Mignon) - Gigue (L'Italienne)

Interval

《ドルネルL.A. Dornel (c1680-c1775) 》
組曲 ト短調 (Paris, 1709) Suite en trio

I. Ouverture-Gay II. Air tendre-Lentement III. Rondeau-Gay
IV. Air en Loure(Moderato) V. Caprice-Lentement - Legerement VI. Gigue

《フォルクレA. Forqueray (c1671-1745) 》
ルクレール"La Leclair" from Harpsichord Suite no.2 in G major (Paris, 1747)

クープラン"La Couperin" from Harpsichord Suite no.1 in d minor (Paris, 1747)

《マレ M. Marais (1656-1728) 》
組曲 ホ短調 (Paris, 1692) より from Suite in e minor

Prlude - Fantaisie - Gavotte - Rondeau - Sarabande en Rondeau - Menuet - Caprice - Passacaille


●ヨーロッパの音楽史上において17〜18世紀は「バロック時代」と呼ばれており、人間復興がうたわれたルネサンス時代の声楽重視の音楽に替わって、器楽のための音楽が対等の地位を獲得しました。当時、音楽の中心はイタリアで、ヨーロッパの音楽家たちはこぞってイタリアへと赴き、そこで生命力あふれる音楽を吸収してそれぞれの国へと帰って行ったのです。また、政治的にはフランスの太陽王ルイ14世がその絶対王政のもとにドイツのハプスブルグ家の支配を打ち砕き、実質的に近代ヨーロッパ初の強大な国を作り上げていく変革の波が打ち寄せていました。
●バロック音楽の大きな特徴は通奏低音と呼ばれる構造で、旋律楽器に対しての低音声部を意味します。そこに具体的な楽譜は1本の旋律しかなく、指定された数字(現在の和音コードのようなもの)を読んで演奏者が自由に即興的に音楽を作っていくことができます。そのため演奏者の趣味や知識が大きく反映されるのですが、時代が上がるに従い、作曲者の意図を正確に楽譜上に残すことが主流となってすたれていきました。
●本日の演奏会タイトルの「トリオソナタ」は2つの旋律と通奏低音のための作品を指します。器楽のための音楽様式を意味する「ソナタ」が確立したのもこの時代で、声部が3つあるところから3を意味する「Trio」を用いているのですが、通奏低音部は1つの低音旋律を弦楽器と鍵盤楽器の2つで演奏することが主流で、多くは4人で演奏されます。

●フランスの作曲家ボワモルティエ は、当時の作曲家=演奏家という概念の中では珍しく、演奏家としてはあまり認められず、むしろ劇場の音楽監督として知られていました。彼は今までに考えられなかったような楽器編成(5本のフルートのみ、3本のフルートと通奏低音など)を取り入れたり、「コンチェルト」というイタリア語の名称を初めてフランスで採用するなど、様々な新しい試みを行っています。
●プログラム中ただ一人のドイツの作曲家であるテレマン は、当時バッハをしのぐ人気と名声を得ていました。彼の祖先の多くは教会に関係しており、テレマンもまたライプツィヒで法律を学ぶことになるのですが、独学で作曲を続けてきた彼の音楽的才能がこの地で初めて評価されることとなります。その後、教会の音楽監督を経て伯爵付きの楽長となって一時期ポーランドに暮らしたり、フランスの音楽家たちに招かれてしばらくパリに滞在するなど、母国ドイツ以外の音楽に触れる機会にも恵まれましたが、終生の活動の地はドイツのハンブルグでした。
●ルイ14世が政権を握っていたころ、王自身が舞踏家でもあって非常に音楽を好んでいたため、フランスの宮廷には目的別の音楽組織が3つあり、野外での祝祭や戦争の従軍などで音楽を演奏していた組織をエキュリと呼んでいました。ここに属していたオトテール 一族はまた楽器製作にも優れ、教則本の出版などにも携わっています。彼の最初の出版物「フラウト・トラヴェルソの原理」はフルート奏法に関する初めての教則本で、初期の木管楽器の奏法、特に18世紀初期フランス音楽の装飾法に関する重要な資料でもあり、今日でも使われています。

●フランスでオルガン奏者として活躍していたドルネル については余り詳しい経歴が残されていません。最近フランスで出版された音楽辞典には1775年没とされていますが、新事実としての根拠は弱いようです。ドルネルは当時流行の最先端であったイタリアの音楽、特にコレッリに影響を受けており、それはヴァイオリンソナタの様式(緩-急-緩-急の4曲構成)に現れています。ト短調のトリオソナタは、彼の最初の器楽作品集に収められています。
●フランスの宮廷内でエキュリとともに世俗音楽を担当したシャンブルの音楽家たちは、屋内での式典や舞踏会などで中心的役割を果たしており、ここにフォルクレ はヴィオル(ヴィオラ・ダ・ガンバ)の常任奏者として属していました。彼はヴィオルのための作品を数多く残していますが、そのうちのいくつかは後に息子によってチェンバロ用に編曲されており、今回演奏する2曲はその中に含まれています。表題の「ルクレール」「クープラン」はフォルクレと同時代の作曲家名です。これは"ポルトレ(肖像)"といってこの時代に流行した作曲法のひとつで、名前を表題にすることでその人への敬意をこめ、性格や作風の特徴を盛り込んで作られています。
●作曲家でヴィオル奏者でもあったマレ は、ヴィオルを習って半年で師サント・コロンブを超えてしまったため、師は教えることを拒んだ、という逸話が残されているほど優れた音楽家であったのでしょう。フォルクレと同様、シャンブルの常任奏者として長く仕えました。マレはフォルクレと比較されることが多く、非常に優美なマレの音楽を"天使"と、それに対して鋭さと機知に富むフォルクレは"悪魔"と評されています。組曲ホ短調が含まれる作品集は、フランスで初めて書かれた「トリオソナタ」の様式の作品で、一連の独立した舞曲で統一されています。出版時に楽器指定はされていないので、今日は2本のヴォイスフルート(D管のテナーリコーダー。音域はフルートと同じ)を使用します。(文責:浅海、奥田、大西)


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